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スピニングリール版「大河ドラマ」

現代スピニングリールのルーツ、「イリングワース」。それは20世紀初頭のイギリス、ヨークシャー地方で誕生した。その後、スピニングリールは本国イギリス、フランス、スウェーデン、イタリア、ドイツ、スイスと欧州全体で発展を遂げていく。第2次世界大戦後は、アメリカを舞台に大市場競争が繰り広げられた。その「波」は、戦後の復興期を迎えた日本にも届き…。

私たち釣り人が何気なく使っているスピニングリール。その秘められた過去を、著者が世界を舞台に語り尽くします。膨大なコレクションから登場するさまざまなリールたち、やがて世界市場を席巻する日本の初期製品など、眺めているだけでも楽しくなる1冊。


 ■今週のピカイチ度 ★★★
 ■一家に1冊、永久保存版度 
 ■編集者の「マジで魂、詰まってます」度 ★★★

A5判192ページ全カラー
定価 2,100円(税込)

※情報はほぼ週イチ更新です。★=3つが最高

〜制作の舞台裏〜

思いのたけをタイトルに込めました

 書名を見て、「イマイチ意味わかんない」と思った方もいらっしゃるかもしれません。でも、これには深い深い意味があるんです、聞いてください…!

 この本の名前を思いついた時、体にイナズマが走りました。編集者にとって本のタイトルは「命」。これが企画段階であっさり決まることもあれば、中のデザインが大方出来ているのにまだ悩んでいる、というケースもあってさまざまです。この本では後者でした。

 当初、浮かんできたのは月並みな言葉ばかり。

「スピニングリール物語」
「スピニングリール大図鑑」
「スピニングリール大全」
「スピニングリール・パーフェクトBook」
…etc.

 ダメだ、どれも言葉に力がない、これではこの素晴らしい本の中身が全然伝わらない。

 そんな時、本に載せる写真を撮るためにカメラマンさんと連れ立って著者の國吉さんを訪ねました。博多出張、1泊2日でリール約350台撮影(!)とんでもない強行軍です。仕事でソウルに赴任されていた著者の國吉さんはこの日のために数日前に帰国され、少しでも撮影がスムーズにいくようにと、撮影順にリールをテーブルの上に並べて待機してくださっていました。大きなテーブルはリールとケースで埋まり、置ききれなかったものが下にもズラリ。壮観です。

 撮影中、次から次へとリールが手渡されていきます。美しく、金属なのに「温かみ」「柔らかさ」を感じる独特の質感と心地よい重さの初期のリール。

 世界的に流行したミッチェルのモデルの数々。
 いわずと知れたアブ。
 名前も知らない欧州のリール。
 そして、今の高精度からは想像もつかない日本の初期のリール。

 それらはまさにスピニングリールがこの世に生まれ、やがて世界を巡って発展していく激動の歴史そのものでした。僕は、掌(てのひら)にリールを受け止め続けました。ハードな撮影でしたが、二度と体験できない希有な一時でした。

 この時の体験が本の名前を決める原動力になりました。掌で受け止めた思いのありったけを、この言葉に込めました。

「ベールアームは世界を回る」

 ベールという名のスピニングリールの歴史は、本当に世界を回ったのです。

 どうですか、本書を読みたくなってきませんか? 

 編集者生活20年弱の僕のキャリアの中でも一、二を争うこの傑作コピーを、たぶん、僕は死ぬまで忘れない(←ちょっと大げさか)。


●オマケ「ベールアームの「ベール」の意味を知っていますか?」
 「bail」=鍋、バケツなどの「つる」。これ、ご存知でしたか? 恥ずかしながら僕はこの本を作るまで知りませんでした。てっきりウエディングベール(veil)の方だと思っていたのです。だってホラ、「ベールを上げる」って言うじゃないですか…(恥)。

●オマケその2「著者の國吉さんについて」
 國吉昌秀さんは、リールコレクターであると同時に、もちろん大の釣り好き。特に海釣りが好きで、撮影時も前日に釣ったというブリの刺身をご馳走になりました。そんな國吉さんが最近ハマッているのは「リールもサオも使わないマダイのテンヤ釣り」だそうです。ケッサクなオチ、ですね(笑)。